マルチモーダルRAGとは【2026】画像・PDF・図表を検索する3手法を独自比較
一次ソース検証型AIメディア編集部 ・ 監修: 依田 尚人
目次
- マルチモーダルRAGとは何か
- マルチモーダルRAGの定義と通常RAGとの違い
- 従来テキストRAGの限界と2026年に実用段階へ入った背景
- 画像・PDF・図表を検索する3手法【独自比較表】
- 3手法の全体像と選定軸(独自比較表)
- 手法A: 図表をキャプション化してテキスト検索
- 手法B: 統合(シングルベクトル)マルチモーダル埋め込み
- 手法C: ページ画像マルチベクトル(遅延相互作用/ColPali系)
- ドキュメント検索モデルを比較する【独自集計】
- ColPali・ColQwen2.5・ColNomic の位置づけ(独自集計表)
- シングルベクトル系モデルと日本語文書への対応状況
- 実装に必要なツール群
- PDF・レイアウト解析ツール(Docling・Marker・MinerU)
- ベクトルDBの遅延相互作用(マルチベクトル)対応
- どの手法を選ぶか(ユースケース別の指針)
- コスト・精度・日本語・スケールで分かれる手法の選び方
- 導入時の制約と過剰投資を避ける観点
- まとめ
マルチモーダルRAGとは、図表・グラフ・レイアウトを含む画像やPDFを、テキストへ変換せずにそのまま検索できるRAGのことだ。2026年時点で実装手法は大きく3つに整理できる。図表を説明文へ変換して従来のテキスト検索に載せる「キャプション化」、画像とテキストを1つの共通ベクトルにまとめる「統合(シングルベクトル)埋め込み」、ページを画像のまま複数ベクトルで照合する「遅延相互作用(ページ画像マルチベクトル)」の3系統である。レイアウト保持は遅延相互作用型、手軽さとストレージ効率は統合埋め込み型やキャプション化が優位で、万能な正解はなく用途で選ぶ。
社内のPDFやスライドを検索させたいのに、表やグラフの中身が拾えず「肝心の数字が出てこない」——これはテキスト抽出だけに頼るRAGでよく起きる。本記事では画像・PDF・図表を検索する3手法と代表実装を、精度・実装難度・コスト・レイアウト保持・日本語対応の軸で一次情報から独自に比較する。RAGの仕組み自体はRAGとは何かに譲り、「図表を含む文書をどう検索対象にするか」に絞る。
なお本記事は特定の製品・モデルを勝たせず中立に整理し、特定ツールや当社サービスへの送客は一切しない。挙げるモデルはいずれも実在する代表例で、唯一の正解として推奨するものではない。数値・仕様には出典と参照日を付し、鮮度が速いため2026年時点の情報である点を明示する。
マルチモーダルRAGの実装は「キャプション化」「統合(シングルベクトル)埋め込み」「ページ画像の遅延相互作用」の3系統に整理できる。図表やレイアウトの保持精度は遅延相互作用型(ColPaliなど)が強い一方、ストレージと計算コストは大きい。統合埋め込み型(Cohere Embed 4・voyage-multimodal-3.5)はマネージドAPIでGPU不要・省ストレージだが、最難の視覚推論では一歩譲る場合がある。2026年は多くの企業コーパスで両者の精度差が縮小しており、用途・コスト・日本語比率で選ぶのが実務的だ(出典: Voyage AI voyage-multimodal-3.5・参照2026-07-18)。
マルチモーダルRAGとは何か

マルチモーダルRAGの定義と通常RAGとの違い
マルチモーダルRAGとは、画像・図表・PDFのレイアウトをテキスト化せずに検索対象にできるRAGを指す。従来のテキストRAGはOCRやテキスト抽出で文字列だけを取り出すため、表の行列関係やグラフの形状、図面の位置情報といった「文字にならない情報」が抜け落ちやすい。ページを画像として、あるいは画像とテキストを同じ空間で扱うことで、この欠落を抑える。一言でいえば「図表やレイアウトを保ったまま検索できるRAG」である。
| 比較軸 | 通常テキストRAG | マルチモーダルRAG |
|---|---|---|
| 検索対象 | 抽出したテキスト | ページ画像・図表・テキスト |
| 図表・グラフ | テキスト化で欠落しやすい | レイアウトを保持して検索 |
| 前処理 | OCR・テキスト抽出が中心 | 画像埋め込み or 軽い変換 |
| 得意な文書 | 文字中心の文書 | 図表・スライド・帳票・図面 |
従来テキストRAGの限界と2026年に実用段階へ入った背景
OCRやテキスト抽出は手軽だが、表・グラフ・レイアウト・図面の空間情報を落とすため、図表を多く含む文書では回答精度が下がりやすい。この課題に対し2026年は、ページ画像をそのまま検索するColPali系の視覚文書検索が研究段階から実務投入へ進み、Cohere Embed 4やvoyage-multimodal-3.5といった商用のマルチモーダル埋め込みも揃った(具体的な仕様と出典は後述の各手法で示す)。ただし世代交代が速いため、採否は自社文書での検証を前提としたい。
画像・PDF・図表を検索する3手法【独自比較表】

3手法の全体像と選定軸(独自比較表)
画像・PDF・図表を検索対象にする実装は、大きく次の3手法に整理できる。下表は公開一次情報を横断して独自に集計したもので、特定の手法を推奨するものではない。万能な正解はなく、扱う文書の性質とコスト制約で選ぶのが実務的だ。
| 比較軸 | 手法A キャプション化 | 手法B 統合埋め込み | 手法C ページ画像マルチベクトル |
|---|---|---|---|
| 図表の検索精度 | 中(変換品質に依存) | 中〜高 | 高(レイアウト保持に強い) |
| 実装難度 | 低(既存RAGを流用) | 低〜中(APIで完結) | 中〜高(専用DB・運用が必要) |
| ストレージ・コスト | 小 | 小(1ページ1ベクトル) | 大(1ページ約1,000ベクトル) |
| レイアウト保持 | 弱い | 中 | 強い |
| 日本語対応 | 変換品質しだい | 多言語モデルで対応 | 多言語variantで対応 |
| 代表実装 | VLM/OCR+テキストRAG | Cohere Embed 4・voyage-multimodal-3.5 | ColPali・ColQwen2.5 |
手法A: 図表をキャプション化してテキスト検索
手法Aは、VLM(視覚言語モデル)やOCRで図表・グラフを説明文へ変換し、従来のテキストRAGにそのまま載せる方式だ。長所は実装が容易で、既存のテキストRAG資産やベクトルDBを流用でき、ストレージも小さいこと。短所は、変換時に細かい数値や空間配置が落ちやすく、変換品質(特に日本語のOCR・キャプション精度)に検索結果が左右される点だ。分割設計(RAGのチャンク分割戦略)も精度に効き、文字中心で図表が補助的な文書に向く。
手法B: 統合(シングルベクトル)マルチモーダル埋め込み
手法Bは、画像とテキストを1つの共通ベクトル空間に埋め込み、ページ全体を1本のベクトルで表す方式だ。代表例のCohere Embed 4は生のPDFページを直接埋め込め、128KコンテキストとMatryoshka次元(256/512/1024/1536)に対応する(出典: Cohere Embed Multimodal v4・参照2026-07-18)。voyage-multimodal-3.5は2026-01公開で、テキスト・画像に加え動画フレームの検索にも対応する(出典: Voyage AI voyage-multimodal-3.5・参照2026-07-18)。長所はパース不要・省ストレージ・スケール容易で、マネージドAPIならGPUを自前で持たずに使えること。短所は、最難の視覚推論では手法Cに一歩譲る場合があることだ。
手法C: ページ画像マルチベクトル(遅延相互作用/ColPali系)
手法Cは、ページを画像のまま多数のベクトル(パッチ単位)に分解し、ColBERT由来の遅延相互作用(MaxSim)で照合する方式だ。代表のColPaliはPaliGemma-3Bを基に、ページを32×32グリッド=1,024パッチ×128次元で表現する(出典: illuin-tech/colpali・参照2026-07-18/Qdrant How ColPali Works・参照2026-07-18)。長所はOCR不要でレイアウト・図表に最も強く、複雑な視覚推論に向くこと。短所は1ページで千ベクトル級になりストレージが肥大し、計算も重く、自前運用ならGPUが前提になる点だ。マルチベクトルの保存先はベクトルデータベースの比較のとおり、遅延相互作用に対応したDBが要件になる。
ドキュメント検索モデルを比較する【独自集計】

ColPali・ColQwen2.5・ColNomic の位置づけ(独自集計表)
手法Cの代表モデルを公開情報から独自に集計したのが下表だ。いずれもオープンモデルで、基本的に自前推論を前提とする点は共通する。違いはベースVLMのサイズと言語対応で、軽量なColSmolはオンデバイス寄り、ColQwen2.5はMetric-AIなどが公開する多言語variantで日本語を含む言語に対応する(出典: Metric-AI/ColQwen2.5-7b-multilingual-v1.0・参照2026-07-18)。用途・言語・運用リソースで選ぶ。
| モデル | ベースVLM | 多言語・日本語 | モデル規模 | 提供形態 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| ColPali | PaliGemma-3B | 英語中心 | 約3B | オープン(GitHub/HF) | illuin-tech/colpali |
| ColQwen2.5 | Qwen2.5-VL-3B | 多言語版で日本語対応 | 約3B(多言語版7B) | オープン(HF) | vidore/colqwen2.5-v0.2 |
| ColSmol | SmolVLM | 軽量・オンデバイス向け | 数百M級 | オープン(HF) | illuin-tech/colpali |
| ColNomic | Qwen2.5-VL系 | 多言語対応 | 3B/7B | オープン(HF) | Nomic(vidore系) |
シングルベクトル系モデルと日本語文書への対応状況
手法B側のモデルの日本語対応も見ておく。Cohere Embed 4とvoyage-multimodal-3.5は多言語対応のマネージドAPIだ(前掲の各公式)。日本語文書については、ColQwen2.5の多言語variantが日本語を含むほか、テキスト側ではJaColBERTのような日本語ColBERTも遅延相互作用の選択肢になる。ただし日本語特化の評価はまだ限られるため、自社文書での事前検証を勧めたい。
実装に必要なツール群

PDF・レイアウト解析ツール(Docling・Marker・MinerU)
キャプション化やハイブリッド構成では、PDFを構造化データへ整える前処理層が要になる。DoclingはIBM Researchが開発し、現在はLF AI & Data Foundationがホストするオープンソースで、ライセンスはMITだ。PDFやOffice文書・HTMLをMarkdownやJSONへ変換し、表やレイアウトを保持したままLangChainやLlamaIndexと連携できる(出典: docling-project/docling・参照2026-07-18/LF AI & Data・参照2026-07-18)。ほかに万能型のMarker、軽量なMinerUやPyMuPDF4LLMがあり、精度重視か速度重視かで使い分ける。
ベクトルDBの遅延相互作用(マルチベクトル)対応
手法Cを使うなら、マルチベクトル(遅延相互作用)を格納・照合できるベクトルDBが必須になる。例えばQdrantはこれをネイティブに扱え、ColPali・ColQwen・ColBERTの出力を追加処理なしで保存しMaxSim照合できる(出典: Qdrant Multivectors and Late Interaction・参照2026-07-18)。千ベクトル級のページ表現はストレージ設計や量子化の検討が欠かせない。粗く絞って再ランキングする二段階検索も定石で、選択肢はリランカーモデルの比較で整理している。特定DBの推奨ではなく、「マルチベクトル対応が要件」という点を軸に選ぶとよい。
どの手法を選ぶか(ユースケース別の指針)

コスト・精度・日本語・スケールで分かれる手法の選び方
選び方の指針を示す(唯一解ではなく、あくまで目安だ)。既にテキストRAGがあり低コストを優先するなら手法A(キャプション化)から始めるのが無難だ。図表を含む文書を扱いたいがGPU運用は避けたい、あるいは大規模にスケールさせたいなら手法B(マネージドAPIの統合埋め込み)が向く。図面・設計書・複雑な帳票で最高精度が要り、GPU運用も許容できるなら手法C(ColPali系)が候補になる。日本語比率が高い場合は、多言語variantの採用や社内文書での事前検証を必ず組み込む。
導入時の制約と過剰投資を避ける観点
導入時の落とし穴も同じ粒度で押さえたい。1つ目はストレージ肥大で、ColPali系は1ページが千ベクトル級になるため量子化やプーリングを前提に設計する。2つ目は日本語評価の不足で、海外ベンチ中心のスコアを鵜呑みにせず自社文書でPoCを行う。3つ目はモデルとツールの鮮度で、2026年前半は世代交代が速く、採用前に年号と一次情報の出典で確認する。4つ目は過剰投資の回避で、最初から手法Cに飛びつかず小さく始めて効果を測る。まずは自社文書での小規模なPoCから始めるのが、遠回りに見えて最短だ。
まとめ
マルチモーダルRAGとは、図表・グラフ・レイアウトを含む画像やPDFをテキスト化せずに検索できるRAGだ。実装は「キャプション化」「統合(シングルベクトル)埋め込み」「ページ画像の遅延相互作用」の3系統で、レイアウト保持と図表精度は手法C(ColPali系)、手軽さと省ストレージは手法A・Bが優位だ。2026年は多くの企業コーパスで精度差が縮小しており、万能な正解はない。コスト・精度・日本語比率・スケールの4点で選び、海外ベンチを鵜呑みにせず自社文書でPoCを回す——この基本を外さないことが、図表を含む文書検索を実務で活かす分かれ目になる(本記事は2026年7月18日時点の公開情報にもとづく)。
RAGの基礎からたどりたい方はRAGとは何か、生成したベクトルの保存先の選び方はベクトルデータベースの比較、実際に社内で構築する手順は社内向けRAGチャットボットの作り方もあわせてどうぞ。
よくある質問
- Q. マルチモーダルRAGと通常のRAGの違いは何ですか?
- 通常のRAGはテキストを対象に検索するため、PDF内の図表・グラフ・図面は情報が欠落しがちです。マルチモーダルRAGは画像・図表・レイアウトを保持したまま検索対象にできる点が違います。実装はキャプション化・シングルベクトルの統合埋め込み・ページ画像の遅延相互作用の3系統に整理できます。
- Q. ColPaliとは何ですか?
- ページを画像のまま複数ベクトル(パッチ単位)に変換し、ColBERT由来の遅延相互作用(MaxSim)で照合する視覚文書検索モデルです。OCR不要でレイアウトを保持できるのが特徴で、後継・派生にColQwen2.5、ColSmol、ColNomicなどがあります(出典: illuin-tech/colpali・参照2026-07-18)。
- Q. マルチモーダルRAGは日本語のPDFや図表に対応していますか?
- 対応します。ColQwen2.5にはMetric-AIなどが公開する日本語を含む多言語variantがあり、Cohere Embed 4やvoyage-multimodal-3.5も多言語対応です。テキスト側はJaColBERTなどの日本語ColBERTも選べます。ただし日本語特化の評価は限定的なため、自社文書での事前検証が推奨されます。
- Q. 図表を説明文に変換する方式とページ画像を直接ベクトル化する方式はどちらが良いですか?
- 用途次第です。キャプション化は実装が容易で低コスト、既存のテキストRAG資産を流用できますが、変換時に情報が欠落しやすくなります。ページ画像の遅延相互作用はレイアウト保持で図表に強い一方、ストレージと計算コストが大きくなります。
- Q. マルチモーダルRAGの導入にGPUは必須ですか?
- 手法によります。ページ画像マルチベクトル(ColPali系)を自前で動かす場合はGPUがほぼ前提です。一方、Cohere Embed 4やvoyage-multimodal-3.5などのマネージドAPIを使うシングルベクトル方式なら、GPUを自前で用意せずに導入できます。
- Q. Cohere Embed 4とColPaliの違いは何ですか?
- Cohere Embed 4はページ画像を1つのベクトルに埋め込むシングルベクトル型で、ストレージが小さくスケールしやすいのが特徴です。ColPaliはページを多数のベクトルに分ける遅延相互作用型で、最難の視覚推論に強い一方ストレージが大きくなります。2026年は多くの企業コーパスで両者の精度差が縮小しているとされます。
出典・参考資料
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