GraphRAGとは?通常のRAGとの違いと向いている用途を解説
一次ソース検証型AIメディア編集部 ・ 監修: 依田 尚人
目次
社内のドキュメントをAIに検索させて答えさせるRAG(検索拡張生成)を入れてみたものの、「複数の資料にまたがる質問」や「全体として何が言えるか」という問いになると急に的外れな答えが返ってくる——そんな壁に当たっていないだろうか。その解決策として名前が挙がるのがGraphRAGだ。本記事は、GraphRAGとは何か、通常のRAGと何が違い、どんな問いに向き、どこに限界があるのかを、2026年6月時点のMicrosoftの公式情報と当社の運用知見をもとに中立に整理する。RAGそのものの仕組みは「RAGとは(検索拡張生成の仕組み)」に譲り、本記事はGraphRAG固有の構造と使いどころに絞る。
GraphRAGとは、文書から抽出した「もの同士の関係(誰が・何を・どう繋がるか)」をナレッジグラフとして構造化し、それを根拠にAIが答えるRAGの拡張手法だ。文章の断片を似ている順に取り出す通常のベクトル検索RAGに対し、GraphRAGは関係をたどって答えるため、複数文書を横断する質問や「全体として何が言えるか」という俯瞰的な問いに強い。一方、グラフ構築の前処理(LLM呼び出し)が重く、小規模な社内FAQでは費用対効果が合いにくい。まず通常のRAGで足りるかを見極め、関係性・横断の問いが業務の中心になって初めて検討するのが堅い(2026-06-30時点)。
なお当社(YDAIコンサルティング AI編集部)は、16以上の事業で社内RAGを構築・運用してきた立場にある。そのうえで本記事は特定の製品・実装を勝たせず、GraphRAGが要るケースと要らないケースを中立に整理する。特定ツール・当社サービスへの送客は一切しない。
結論:GraphRAGとは「関係性をグラフ化して答える」RAGの拡張

GraphRAG(グラフ検索拡張生成)とは、Microsoft が公開したオープンソースのGraphRAGに代表される手法で、公式には「非構造のテキストから、LLMの力で意味のある構造化データを抽出するデータパイプライン」と説明される(出典: Microsoft GraphRAG 公式・GitHub・2026-06-30参照)。平易に言えば、社内文書をそのまま検索するのではなく、文書から「登場するもの(エンティティ)」と「その関係」を先に取り出してグラフ(節と線のネットワーク)にしておき、質問が来たらそのグラフをたどって答える仕組みだ。
通常のRAGは、文書を細かく分割してベクトル化し、質問に意味が近い断片を上位から取り出してLLMに渡す。手軽で多くの社内FAQに十分だが、「似ている断片」を集める方式のため、複数の文書にまたがって初めて見えてくる関係や、データ全体を俯瞰した結論を組み立てるのが苦手とされる(出典: Microsoft Research・2026-06-30参照)。
GraphRAGはこの弱点を、関係を明示的にグラフ化することで補う。つまり両者は「新旧」や「優劣」ではなく、解きたい問いの種類が違う。一問一答は通常のRAG、関係や全体像は GraphRAG、という棲み分けで捉えると見通しが良い。
具体例で考えると分かりやすい。「経費規定の上限はいくらか」は1つの規定を引けば答えが出る一問一答で、通常のRAGの領域だ。一方「このプロジェクトに誰が関わり、どの決裁を経て進んだか」は複数の文書をまたいで関係をたどる必要があり、関係を構造化したGraphRAGが力を発揮する。自社のよくある質問がどちらに寄るかが、最初の判断材料になる。
GraphRAGの仕組み——ナレッジグラフ化の手順

GraphRAGの中身は、大きく「準備段階(インデックス作成)」と「クエリ時の処理(検索)」に分かれる。準備段階では、文書をあらかじめナレッジグラフに変換しておく(出典: Microsoft GraphRAG 公式・2026-06-30参照)。質問のたびに検索する通常のRAGと違い、「あらかじめ関係を構造化しておく」のがGraphRAGの中身の違いになる。まずインデックス作成の2ステップを押さえ、そのうえでクエリ時の検索を見ていく。
ステップ1:テキスト分割と関係抽出(インデックス作成)
まず文書を分析しやすい単位(テキストユニット)に分割する。次にLLMを使って、各単位から「エンティティ(人・組織・物・概念)」と「関係」、必要に応じて主張(claim)を抽出する。この時点で、文書がネットワーク状のナレッジグラフに変換される。
ステップ2:コミュニティ検出と要約(インデックス作成)
続いて、関係の濃いエンティティ同士をまとまり(コミュニティ)にグループ化する。GraphRAGはこのコミュニティ検出にLeiden(ライデン)法による階層的クラスタリングを用いる(出典: Microsoft GraphRAG 公式・2026-06-30参照)。そのうえで各コミュニティの内容をボトムアップで要約し、データ全体を見渡せる階層的な要約をあらかじめ作っておく。この「コミュニティ要約をあらかじめ作り、全体俯瞰の問い(query-focused summarization)に答える」という発想は、GraphRAGの原典論文で提案されたものだ(出典: From Local to Global, arXiv:2404.16130・参照2026-06-30)。
クエリ時の処理:用途で使い分ける2つの検索
ここまでが準備段階(インデックス作成)で、以降は質問が来たとき(クエリ時)の処理になる。応答は、用途に応じて2つの検索を使い分ける。特定の人や物に関する具体的な質問にはローカル検索で対象エンティティとその近傍をたどり、「全体として何が言えるか」という抽象的・横断的な質問にはグローバル検索でコミュニティ要約を集約して答える(出典: Microsoft GraphRAG 公式・2026-06-30参照)。
このうちローカル検索は、ある人物から関係する案件、その案件に紐づく承認者へ、と複数の関係を連鎖的にたどる多段の参照(マルチホップ)に向く。通常のRAGが似た断片を平面的に集めるのに対し、関係をネットワークとして保持しているからこそ、こうした連鎖的な問いに答えられる。検索の入口が「断片」か「関係」かが、そのまま体感の差を生む。
通常のRAGとGraphRAGの違い早見表

両者の違いを、検索の方法・得意な質問・苦手な質問・前処理の重さ・向く規模の5観点で並べると、優劣ではなく向き不向きの関係にあることが分かる。
| 観点 | 通常のベクトル検索RAG | GraphRAG |
|---|---|---|
| 検索の方法 | 質問に意味が近い文書の断片を類似度で取得 | 文書を関係のグラフに変換し、関係をたどって取得 |
| 得意な質問 | 「規定のどこに書いてあるか」等の一問一答 | 複数文書を横断する関係や全体の俯瞰 |
| 苦手な質問 | 文書をまたぐ関係・全体像の要約 | 単純な一問一答(過剰になりがち) |
| 前処理の重さ | 軽い(分割してベクトル化するだけ) | 重い(LLMで関係抽出・コミュニティ要約) |
| 向く規模・データ | 小〜中規模の社内FAQ・規定 | 関係が複雑で横断質問が多い文書群 |
表のとおり、通常のRAGで業務の大半は回り、GraphRAGはその弱点である横断・俯瞰を補う上位の選択肢と捉えるのが実態に近い。比較で迷ったら、まず通常のRAGを試し、横断・俯瞰の質問で力不足を感じてからGraphRAGを検討する順序が無駄を生まない。
GraphRAGが向いている用途・向かない用途

GraphRAGの導入可否は、解きたい問いの形でほぼ決まる。向く問いと向かない問いを先に切り分けておくと、過剰投資を避けられる。
向いている:関係性・横断・俯瞰の質問
向いているのは、答えが1つの文書に書いておらず、複数の情報を繋ぎ合わせて初めて見える質問だ。Microsoft Research は、ばらばらの情報の点と点を繋ぐ質問や、大きなデータ集合の意味的な概念を俯瞰的に理解する質問で、通常のRAGより明確に優れると説明している(出典: Microsoft Research・2026-06-30参照)。たとえば「この案件に関わった人と承認の経緯」「複数の議事録を通じて繰り返し現れる論点」「組織全体で何が課題として語られているか」といった問いが該当する。
向かない:一問一答・小規模・高頻度更新
向かないのは、1つの規定やFAQを引けば答えが出る一問一答、文書量が少なく関係も単純なケース、そして内容が頻繁に入れ替わり毎回グラフを作り直すコストが見合わないケースだ。これらは通常のベクトル検索RAGの方が速く安く、精度も十分なことが多い。高機能だから良いのではなく、問いに合っているかで選ぶ。
導入前に押さえる限界とコスト——小規模では過剰になりやすい

当社(YDAIコンサルティング AI編集部)が16以上の事業で社内RAGを運用してきた知見では、社内RAGの多くは通常のベクトル検索RAGで足り、GraphRAGが本当に要るのは「誰が何を承認したか」のような関係性・横断の問いが業務の中心になる一部のケースに限られる(当社AI編集部の運用知見・定性)。
最大の壁は前処理コストだ。GraphRAGは文書からの関係抽出とコミュニティ要約にLLMを多数回呼び出すため、グラフ構築の手間と費用が通常のRAGより重くなる。文書が頻繁に更新される環境では、その都度グラフを作り直す負荷も無視できない。小規模な社内FAQにいきなりGraphRAGを入れると、効果より前処理コストが上回り、費用対効果が合わずに止まりやすい。
これは社内AIが「よくある失敗7つ」で挙げたPoC止まりの構図と同じで、解きたい問いを決めずに高機能な仕組みから入ると頓挫する。費用全体の考え方は「社内AI導入の費用」も参考にしてほしい。判断はシンプルでよい。まず通常のRAGで足りるかを試し、横断・俯瞰の質問で力不足が明確になったときに、対象を絞ってGraphRAGを小さく検討する。最初から全社文書をグラフ化しようとせず、関係性が効く業務に限定するのがコストを抑えた現実的な入り方になる。
まとめ
GraphRAGとは、文書から関係を抽出してナレッジグラフ化し、その関係をたどって答えるRAGの拡張手法だ。通常のベクトル検索RAGが似た断片を集めるのに対し、GraphRAGは複数文書を横断する関係や全体俯瞰の質問に強い。一方で関係抽出とコミュニティ要約の前処理が重く、小規模な社内FAQでは過剰になりやすい。結論はシンプルで、まず通常のRAGで足りるかを見極め、関係性・横断の問いが業務の中心になって初めてGraphRAGを検討する。どちらを選んでも、解きたい問いを先に決めることが社内活用の前提になる(2026-06-30時点)。
RAGの基礎は「RAGとは(検索拡張生成の仕組み)」、高機能な仕組みから入って失敗しないための勘所は「社内AI導入でよくある失敗7つと回避策」、費用感は「社内AI導入の費用」もあわせてどうぞ。
よくある質問
- Q. GraphRAGとは何ですか?
- 文書から「もの(エンティティ)」と「その関係」を抽出してナレッジグラフに構造化し、その関係をたどってAIが答えるRAG(検索拡張生成)の拡張手法です。Microsoft の公式では、非構造のテキストからLLMの力で意味のある構造化データを抽出するデータパイプライン、と説明されています(出典: Microsoft GraphRAG 公式・2026-06-30参照)。
- Q. GraphRAGと通常のRAGの違いは何ですか?
- 通常のRAGは文書を分割・ベクトル化し、質問に意味が近い断片を類似度で取り出します。GraphRAGは文書を関係のグラフに変換しておき、関係をたどって答えるため、複数文書を横断する質問や全体俯瞰の問いに強い一方、準備(前処理)が重くなります(出典: Microsoft Research・2026-06-30参照)。
- Q. GraphRAGはどんな質問に向いていますか?
- 答えが1つの文書に書かれておらず、複数の情報を繋ぎ合わせて初めて見える質問に向きます。Microsoft Research は、点と点を繋ぐ質問や大きなデータ集合を俯瞰的に理解する質問で通常のRAGより優れると説明しています(出典: Microsoft Research・2026-06-30参照)。
- Q. GraphRAGのデメリットや限界は何ですか?
- 文書からの関係抽出とコミュニティ要約にLLMを多数回呼び出すため、グラフ構築の前処理コストが通常のRAGより重くなります。文書が頻繁に更新される環境では作り直しの負荷も増えます。小規模な社内FAQでは過剰になりやすい点が限界です(当社AI編集部の運用知見・定性)。
- Q. 小規模な社内RAGでもGraphRAGは必要ですか?
- 多くの場合は不要です。一問一答が中心の社内FAQは通常のベクトル検索RAGで足りることが多く、関係性・横断の問いが業務の中心になって初めてGraphRAGを検討するのが堅い進め方です(当社AI編集部の運用知見・定性・2026-06-30時点)。
出典・参考資料
- 1.
- 2.
- 3.
- 4.
- 5.