導入ガイド

監査法人のAI活用|監査証拠と監査人判断の線引き【2026】

編
YDAIコンサルティング株式会社 AI編集部

一次ソース検証型AIメディア編集部 ・ 監修: 依田 尚人

19分
目次

監査法人のAI活用は、データ分析・文書検索・調書の下書きを補助にとどめ、監査証拠の評価、重要性の判断、結論とレビューは監査人が担う設計が出発点です。AIが速く候補を示しても、結論までの経路を人がたどれなければ、監査手続として使える成果物にはなりません。

この記事では、試算表や仕訳データ、証憑、監査調書を扱う場面を対象に、AIの補助を置ける工程と、監査人が確認すべき工程を分けます。会計処理の自動化そのものではなく、原資料へ戻れるか、例外を再実施できるか、承認者を示せるかに焦点を当てます。

当メディアは特定の監査関連ベンダー・サービスと利害関係を持たず、いずれの製品も勝者にしません。出力の誤りや参照漏れも強みと同じ粒度で扱い、自社サービスへの送客は行わず、公開資料を確認できる範囲で示します。

要点サマリ(2026年9月時点・金融庁のAIディスカッションペーパー、日本公認会計士協会の研究文書)

  • AIは仕訳データの整理、証憑検索、監査調書の下書きに使う
  • 監査証拠の評価、重要性の判断、結論は監査人が行う
  • 出力には参照元、修正者、レビュー結果を結び付ける
  • 根拠に戻れない候補は保留し、例外として処理する

監査法人でAIに任せる補助と監査人が担う判断

監査工程では、繰り返し発生する整理と探索をAIに補助させ、評価や結論を人に残すと責任分界を保ちやすくなります。監査計画書の前提やレビュー記録まで、どの時点で誰が確認したかを同じ流れで残すことが重要です。

工程AIの補助監査人の確認残す記録
資料整理試算表と仕訳データの分類対象範囲の確定参照元
証憑探索関連箇所の候補提示証拠としての評価確認結果
調書作成下書きの整形記載内容と結論修正履歴

データ抽出・文書検索・下書きを補助に使う

監査調書、試算表、証憑を起点にしたAI補助と監査人判断の役割分担

AIに任せやすいのは、試算表の科目を並べ替える、仕訳データから条件に合う行を探す、証憑の候補を監査調書に結び付ける、といった準備作業です。ここでは、入力した資料の範囲と検索条件を先に固定します。後から別の資料が加わった場合も、どの出力がどの時点の資料に基づくかを区別できるようにします。

下書きは完成品ではなく、確認を始めるための作業台として扱います。監査調書の文面を整える際も、AIが補った説明と原資料にある事実を混ぜず、出典の位置を残します。経理処理そのものの整理は、経理業務をAIで効率化する方法で別に確認できます。

監査証拠の評価と結論は監査人が担う

候補として見つかった差異が監査上どのような意味を持つかは、データの形だけでは決まりません。監査人は、証憑の内容、取引の背景、追加手続の要否を確かめてから、監査証拠として扱うかを判断します。AIの文章がもっともらしくても、判断の根拠を代替するものにはしません。

結論を記す前には、作成者とは別の視点でレビューできる状態を作ります。レビュー記録には、確認した資料、差戻しの内容、最終的に採った理由を残します。金融分野のAI活用に関する論点整理でも、利用場面に応じた管理の重要性が扱われており、用途ごとの確認設計が欠かせません。

監査証拠を確認できる形でAIを使う

AIの出力を使う条件は、回答の見栄えではなく、原資料と出力の対応を監査チームが再確認できることです。証憑やレビュー記録をたどる経路を先に決めると、途中で発見した例外も同じ方法で扱えます。

参照元と出力の対応を残す

証憑から監査調書の下書きまでを参照元で結ぶ確認連鎖

出力の近くに、利用した証憑、試算表の範囲、検索した仕訳データを示す情報を置きます。リンクや識別子の形式は組織内で決めればよく、重要なのは第三者が同じ資料へ戻れることです。原資料の更新後に再度処理した場合は、以前の出力を上書きせず、作成時点を分けます。

監査計画書に沿って対象を絞った場合も、その選定理由を記録します。AIが参照した範囲だけを見るのではなく、参照されなかった資料がなぜ対象外なのかを監査人が確認します。出力の根拠を説明できる形にする考え方は、AI監査チェックリストの確認観点ともつながります。

例外を再実施して確認する

AIが検出した例外は、正誤を決めた結果ではなく、追加確認が必要な候補です。候補を受け取った担当者は、原資料へ戻り、同じ条件で抽出し直せるか、別の証憑と整合するかを確認します。再実施が難しい場合は、出力を使う範囲を狭めるか、保留として扱います。

例外を消して見やすくするより、例外が起きた理由を残すほうが次のレビューに役立ちます。条件の曖昧さ、資料の欠落、用語の揺れを分けて記録すれば、AIの調整と監査手続の改善を混同せずに済みます。判断を急がず、確認の入口として例外を扱う姿勢が必要です。

調書とレビューをAI出力から分けて管理する

AIが作った文章をそのまま監査調書の確定版にしないことが、修正経緯とレビューの責任を守ります。下書き、監査人の修正、レビュー後の確定版を分け、いつ誰が内容を確認したかを追える状態にします。

下書きと確定版を混同しない

監査調書の下書き、修正、レビュー記録、確定版を分けた証跡図

AI出力には、未確認の表現や資料にない補足が混じる可能性があります。そのため、下書きには検討中であることが分かる保存先や状態を与え、確定版と同じ場所に無造作に置かないようにします。監査人が原資料と照合して直した箇所は、修正後の文章だけでなく、修正理由も残します。

調書の作成者が変わる場合には、引き継ぐ範囲と未処理の例外を明示します。AIが整理した文章を起点にしても、どの資料を見直すべきかが伝わらなければレビューは行えません。確認者が迷わず戻れる構造を優先すると、作業の速さと検証可能性を両立しやすくなります。

レビュー担当と承認時点を記録する

レビューは、出力を読んだという印だけで終わらせず、何を確認したかを残します。たとえば、証憑との照合、例外の扱い、結論の根拠を分けると、次回の確認範囲を共有しやすくなります。承認時点が明確なら、後で資料が更新された場合にも、どの版を基にした判断かを区別できます。

AI利用のルールを部門で揃える際は、ツール名ではなく、確認者と承認者の役割を先に定義します。AIガバナンス体制の作り方のような横断的な体制設計も参照しつつ、監査業務固有のレビュー工程へ落とし込みます。

誤りや根拠不足を止める確認ゲート

根拠が薄い出力を後工程へ流さないためには、保留、差戻し、追加確認へ分ける確認ゲートが必要です。AIの候補が使えないこと自体を失敗とせず、止めた理由を残して次の改善対象にします。

原資料に戻れない出力は保留する

証憑の確認から保留、追加確認、担当者への引継ぎに分ける監査の分岐図

出力に書かれた事実を証憑や試算表で確かめられない場合は、監査調書へ進めず保留にします。似た表現の資料をAIが結び付けたとしても、対象期間や取引先、条件が一致するかは人が確認します。根拠が欠けた部分を推測で埋めると、後から訂正の範囲が広がります。

保留した項目は、放置しないよう担当者、戻す資料、次に確認する条件を記録します。情報が追加されたら同じ手順で再確認し、利用できるようになった理由を残します。この循環があれば、AIの性能評価ではなく、監査手続としての妥当性を見直せます。

重要な例外は担当者へ引き継ぐ

例外の中には、通常の検索や下書きの枠では扱えないものがあります。重要性の判断、追加手続、関係者への確認が必要な項目は、AIの画面上で完結させず、担当の監査人へ明確に引き継ぎます。引継ぎ時には、検出条件、原資料、すでに行った確認をひとまとまりで渡します。

誰に引き継いだかと、受け取った側がどう判断したかを記録すれば、後のレビューで経路を追えます。例外の扱いを個人の記憶に任せないことが、チームでAIを使う際の基本です。小さな差戻しも集めておくと、入力範囲や検索条件の見直しにつながります。

小さな監査手続から検証範囲を広げる

導入は、原資料と出力を照合しやすい限定的な補助業務から始め、記録を見て対象を広げる順序が適しています。一度に広い監査工程を変えるより、再現できる確認方法を固めてから次の資料へ進みます。

再現性を確かめやすい補助業務から始める

試算表の整理、原資料照合、レビュー記録から対象範囲を見直す導入フロー

最初の対象には、入力資料が決まっており、結果を原資料で確かめやすい作業を選びます。たとえば、証憑の分類や過去調書の検索は、AIの候補と正しい答えを比較しやすい領域です。ここで参照元、修正、レビューの記録方法を試すと、次の工程にも同じ型を使えます。

導入目的は、AIに判断を渡すことではなく、監査人の確認を必要な箇所へ集中させることです。対象を広げる前に、どの候補が保留になったか、どの資料で照合が難しかったかを振り返ります。全社的な進め方は、中小企業が社内AIを導入する5ステップも参考になります。

記録を見て対象範囲を見直す

一定期間の記録を見て、修正が多い条件や、レビューで止まりやすい工程を確認します。精度という一つの見方だけでなく、原資料に戻れたか、例外を適切に引き継げたか、確認に必要な情報がそろったかを見ます。改善の対象は、AIそのものだけでなく、資料の形式や作業手順にも及びます。

対象を拡大する判断は、担当者が説明できる基準で行います。確認方法が定まらない資料は急いで追加せず、まず保留条件を整えます。こうして監査人の判断と記録を中心に据えれば、AIの出力に過度に依存しない運用へ近づけます。

まとめ

監査法人のAI活用では、試算表や仕訳データの整理、証憑の検索、監査調書の下書きといった補助から始め、監査証拠の評価と結論は監査人が担います。重要なのは、出力を便利な文章として受け取ることではなく、原資料、検索条件、修正、レビュー、承認の経路を追えるようにすることです。根拠に戻れない候補は保留し、重要な例外は担当者へ引き継ぎます。小さな手続で確認方法を確かめ、記録を基に範囲を見直す設計が、監査人の判断を守りながらAIを使う土台になります。

よくある質問

Q. 監査法人はAIだけで監査を完了できますか。
AIは分析や下書きを補助できますが、監査証拠の評価と結論は監査人が確認します。
Q. AIが作った調書はそのまま使えますか。
原資料、修正履歴、レビューの記録と照合してから確定版にします。
Q. AIの出力に根拠が見当たらない場合はどうしますか。
出力を保留し、原資料に戻って担当者が確認します。
Q. 最初に試す業務は何ですか。
参照元と結果を照合しやすい検索・整理・下書きから始めます。
Q. 導入後に見るべき記録は何ですか。
例外、修正、承認、差戻しの理由を工程ごとに残します。

出典・参考資料

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