介護事業所のAI活用【2026】規模別×業務別の適用可否を一枚の表で整理
一次ソース検証型AIメディア編集部 ・ 監修: 依田 尚人
目次
- 結論:規模別×業務別のAI適用可否マトリクス
- なぜいま介護事業所でAIなのか——公的データで見る構造
- 業務別の適用可否と進め方
- 介護記録——音声入力+生成AIで最初に着手する業務(◎)
- 申し送り・引き継ぎ——要約生成は生成AIの得意領域(◎)
- ケアプラン——AIは情報整理・下書き支援まで(△)
- 請求事務——チェック支援はできるが最終確認は人(△)
- シフト作成——制約充足は専用ツールの領域(○)
- 見守り——センサー型機器の導入が前提(○)
- 規模別の現実的な始め方
- 小規模(訪問介護・通所介護)——記録と申し送りの2業務から
- 中規模(グループホーム・小規模多機能)——記録ソフト連携と部分見守り
- 大規模(特養・老健)——ガイドラインの手順に沿った組織的導入
- 補助金・公的支援の使い方
- まとめ
「人手が足りないからAIを使いたい。しかし『介護AI活用事例○選』式の記事を読んでも、うちの規模・うちの業務で何ができるのかが分からない」——介護現場の管理者からよく聞く声だ。本記事はその疑問に、事例の列挙ではなく規模別×業務別の適用可否を一枚の表で示すことで答える。対象は介護・福祉事業所全般(訪問介護・通所介護・グループホーム・小規模多機能・特別養護老人ホーム・介護老人保健施設など。以下「介護事業所」と表記)。業種を問わない導入の全体手順は中小企業が社内AIを導入する5ステップにまとめている。
介護・福祉事業所のAI活用は「どの規模の事業所が・どの業務に使うか」で適用可否が分かれる。(1)介護記録・申し送りは音声入力+生成AIの下書き支援で小規模(訪問・通所)でも今すぐ着手できる。(2)見守り・シフト作成はセンサー機器や最適化機能つき専用ツールの導入が前提で、介護テクノロジー導入支援事業(補助率最大3/4)の対象になり得る。(3)ケアプラン・請求事務はAIが下書き・チェックを支援できるが、専門職の判断と人の最終確認を残すのが前提。厚生労働省も「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(令和6年度改訂)でテクノロジー活用を含む改善手順を示しており、記録まわりの負担軽減から始めるのが定石だ。
結論:規模別×業務別のAI適用可否マトリクス

先に言葉を定義する。本記事で「介護事業所のAI活用」と呼ぶのは、介護・福祉事業所の間接業務やケア周辺業務にAIを適用することだ。その際、(1)文章の下書きや要約を行う汎用生成AI、(2)記録・ケアプラン作成などを支援するケア特化ツール、(3)見守りなどのセンサー型機器の3層を区別して論じる。世の中の「活用事例まとめ」はこの3層を混ぜがちだが、必要な投資も難易度も層ごとに異なる。
| 業務 | 小規模(訪問・通所) | 中規模(GH・小多機) | 大規模(特養・老健) |
|---|---|---|---|
| 介護記録 | ◎ | ◎ | ◎ |
| 申し送り・引き継ぎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| ケアプラン | △ | △ | △ |
| 請求事務 | △ | △ | △ |
| シフト作成 | ○(優先度低) | ○ | ○ |
| 見守り | ○(部分導入) | ○ | ○ |
凡例: ◎=いま汎用生成AIで着手可/○=専用ツール・機器の導入が前提/△=人の判断・体制が必須(AIは支援利用に限る)。以下、この表を業務の行ごと・規模の列ごとに解説する。
なぜいま介護事業所でAIなのか——公的データで見る構造

第一に、人手の構造的な制約がある。厚生労働省が第9期介護保険事業計画にもとづき公表した介護職員の必要数(令和6年7月公表)は、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人。基準の2022年度(約215万人)からそれぞれ約25万人・約57万人の確保が必要になる計算だ。採用だけでこの差を埋めるのは難しく、一人あたりの業務負担を下げる手段としてテクノロジー活用が国の施策に組み込まれている。
第二に、国の後押しが具体化している。厚生労働省の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」は令和6年度改訂で、テクノロジーの活用を含む最近の取組事例等を共通冊子に追加した。補助制度としては介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金・補助率最大3/4)があり、前身のICT導入支援事業の補助対象事業所数は令和元年度195件→令和2年度2,560件→令和3年度5,371件と拡大している。また、科学的介護情報システム(LIFE)で利用者の状態とケア内容のデータを国に提出しフィードバックを受ける基盤も整った。LIFE自体はAIではないが、データにもとづくケア改善の前提が現場に入ったという意味で、AI活用の土台になっている。
こうした構図は介護に限らない。人材紹介・派遣会社のAI活用ガイドや建設・工務店のAI活用ガイドでも、人手制約を背景に「下書き・一次処理はAI、判断は人」という同じ分担が現れている。
業務別の適用可否と進め方

マトリクスの行(業務)ごとに、できること・前提条件・限界を見ていく。各項目は単独で読めるようにしてある。
介護記録——音声入力+生成AIで最初に着手する業務(◎)
記録は介護職の毎日の負担であり、AIの効果が最も見えやすい。スマホの音声入力で話した内容を生成AIが記録文に清書する、という最小構成なら追加投資はほぼゼロで始められる。専用の記録ソフトでは、さくらコミュニティサービス開発の「CareViewer」のように記録時間の大幅短縮を公表する例もある(記録時間2時間→18分などの数値は開発元自身の実績としてリクルートワークス研究所の記事に掲載されたもの)。ただし汎用生成AIを使う場合、利用者の氏名や心身状態をそのまま入力するのは避け、固有名詞を伏せる・学習に使われない設定を選ぶなどのルールを先に整える。作り方は生成AIの社内利用ルールの作り方を参照してほしい。
申し送り・引き継ぎ——要約生成は生成AIの得意領域(◎)
日々の記録から申し送り事項を要約・抽出する作業は、汎用生成AIの最も得意な処理だ。長い記録から「夜勤者が知るべき変化」だけを抜き出す、日報を週次サマリーにまとめる、といった使い方が追加投資ほぼゼロでできる。前提条件はひとつ、口頭と手書きメモの文化からテキスト共有への移行だ。記録のデジタル化(前項)と申し送りの効率化はセットで進むため、小規模事業所が最初に取り組む2業務として最適だ。
ケアプラン——AIは情報整理・下書き支援まで(△)
ケアプラン分野ではAI原案支援ツールが登場している。やさしい手の「むすぼなAI」(Amazon Bedrock基盤)は2026年4月時点で201法人・利用者10万人に使われているとベンダーが公表している(自己申告値)。ただし、ここで線を引くべきだ。ケアプランは利用者の生活全体を見立てる介護支援専門員の専門判断が中心で、AIにできるのは情報整理と文案の下書きまで。生成された案の確認・修正を必ず人が行う体制を残したうえで、支援ツールとして使うのが正しい位置づけだ。
請求事務——チェック支援はできるが最終確認は人(△)
介護報酬請求は加算要件の確認や返戻対応など判断の細かい業務で、AIによるチェック支援の可能性がある一方、誤りが報酬と監査に直結する。保険者ごとのローカルルールも多く、汎用生成AIに請求判断を丸投げするのは危険だ。現実解は、介護ソフト側の請求チェック機能を主に使い、生成AIは返戻理由の文面整理や加算要件の下調べなど文書まわりの支援に限定する組み合わせ。最終確認は必ず事務担当者が行う。
シフト作成——制約充足は専用ツールの領域(○)
シフト作成の本質は、人員配置基準・夜勤ルール・職員の希望という制約をすべて満たす解を探す「制約充足」であり、これは汎用生成AIより最適化機能をもつ専用ツールの領域だ。生成AIに作らせたシフト表はたたき台にはなるが、配置基準を満たす保証がない。専用ツールを使う場合も、配置基準の遵守確認は人が行う。職員数が少なく組み合わせが単純な小規模事業所では、ツール導入より紙やExcelの運用継続が合理的な場合もあり、優先度は規模に応じて判断する。
見守り——センサー型機器の導入が前提(○)
夜間の見守りは、ベッドセンサーやカメラ型のケア特化AI機器の領域で、汎用生成AIでは代替できない。機器の導入が前提になるぶん投資額は大きいが、介護テクノロジー導入支援事業の補助対象になり得る。機器を入れること自体が目的化し、現場のオペレーションに合わず使われなくなる失敗を避けるためにも、まず夜勤帯のどの巡回・確認業務を置き換えるのかを特定してから機種を選ぶ。
規模別の現実的な始め方

次にマトリクスの列(規模)ごとに、現実的な進め方を整理する。
小規模(訪問介護・通所介護)——記録と申し送りの2業務から
専任のIT担当がおらず、端末も限られる前提で考える。着手すべきは◎の2業務、記録と申し送りの文章作成支援だ。スマホ音声入力+汎用生成AIの最小構成と、個人情報を入力しない運用ルールの整備を先に行う。見守り機器などの投資は補助金を使った段階導入を後から検討すればよい。
中規模(グループホーム・小規模多機能)——記録ソフト連携と部分見守り
ユニット単位の運営なら、記録ソフトと生成AIを組み合わせて記録から申し送りまでを一気通貫にする構成が狙える。夜勤帯の見守り機器は1ユニットで部分導入し、職員の習熟を確認してから横展開する。試行の単位を小さく保つことが定着の鍵になる。
大規模(特養・老健)——ガイドラインの手順に沿った組織的導入
見守り・シフト・請求まで一体的に検討できる体制規模だが、複数フロア展開ゆえに教育・定着のコストも大きい。生産性向上ガイドライン(令和6年度改訂)が示す手順——課題の見える化、委員会等の推進体制づくり、試行、定着——に沿った組織的な導入が向く。機器・ツールの選定より、現場リーダーを巻き込んだ推進体制づくりが先に来る。
補助金・公的支援の使い方

見守り機器やICT導入の費用には、介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金)が使える可能性がある。補助率は最大3/4で、窓口は都道府県。旧称のICT導入支援事業から名称が変遷しているため、検索時は両方の名称で調べるとよい。公募時期・対象機器・上限額は年度と都道府県で異なるので、必ず所在地の最新の公募要綱で確認する。AI利用料を含む費用全体の考え方は社内AI導入の費用はいくら?規模別の総額を試算が参考になる。
まとめ
介護・福祉事業所のAI活用は、「規模×業務」の適用可否マトリクスで考えると迷いが消える。今すぐ始められるのは記録と申し送りの文章作成支援で、小規模事業所でも追加投資ほぼゼロで着手できる。見守り・シフトは専用ツールと機器の領域で補助金の対象になり得る。ケアプランと請求は、AIを支援に使いつつ専門職の判断と人の最終確認を残す。介護職員の必要数が2040年度に約272万人へ増えていく構造を踏まえれば、テクノロジーで業務負担を下げる流れは続く。補助事業の条件やガイドラインの版は更新されるため、導入時は必ず最新の公的情報を確認してほしい(本記事は2026年6月時点の一次情報に基づく)。
社内AI導入の全体手順は中小企業が社内AIを導入する5ステップ、他業種の適用例は人材紹介・派遣会社のAI活用ガイドと建設・工務店のAI活用ガイド、運用ルールづくりは生成AIの社内利用ルールの作り方も参考にしてください。
よくある質問
- Q. 介護施設でAIはどう活用できますか?
- 業務単位で適用可否が分かれます。記録・申し送りの文章作成支援は汎用生成AIで今すぐ着手でき、見守り・シフトは専用ツールや機器が前提、ケアプラン・請求は専門職の判断を残した支援利用に留めます。規模別×業務別の早見表で確認するのが近道です。
- Q. 介護記録はAIで効率化できますか?
- できます。音声入力と生成AIによる文章化・清書が着手しやすく、専用記録ソフトでは記録時間の大幅短縮を開発元が公表する例もあります(開発元の自社実績)。利用者の個人情報を汎用AIに入力しない運用ルールの整備が前提です。
- Q. 小規模な訪問介護やデイサービスでもAIを導入できますか?
- できます。専任のIT担当がいなくても、スマホ音声入力と汎用生成AIによる記録・申し送りの文章作成支援なら追加投資ほぼゼロで始められます。見守り機器などは補助金を使った段階導入を検討します。
- Q. 介護のAI・テクノロジー導入に補助金は使えますか?
- 使える可能性が高いです。介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金)は見守り機器・ICT等の導入を補助率最大3/4で支援します。窓口は都道府県で、年度ごとの公募条件は最新の要綱で確認してください。
- Q. ケアプラン作成はAIに任せられますか?
- 任せきりにはできません。AI原案支援ツールは登場していますが、ケアプランは介護支援専門員の専門判断が中心で、AIの役割は情報整理・下書き支援に留まります。生成された案の確認・修正は必ず人が行います。
出典・参考資料
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